笹森花梨の憂鬱?

To Heart 2 二次創作小説

「たかちゃん、こうなったら宇宙人とか超能力者とか未来人とか探すよ!」
 いつもの放課後。なんだかんだと習慣付いてしまったミステリ研の部室に来てみれば、花梨の奴がまた一段と無茶なことを言いだした。
「いや、何が『こうなったら』なんだ? そもそも、こないだ宇宙人は探しただろう? なんだっけ、ヘチマだかなんだかいうの使って」
「Heti(ヘチ)『Hunt for Extra-Terrestrial Intelligence』よ。あれは気の長い話だからそっとしとくってことにしたんよ。やっぱり探すなら足を使わんと」
「しかしだな、宇宙人さえ見つかってないのに、何でまた急に探す対象が増えてるんだ?」
「時代は常に動いてるんよ! どんどん新しいものを探していかないと取り残されちゃうんよ!」
 勢い込んでまくし立てる。こうなったらこっちの話なんてお構いなしだろう。
「そういう訳で、明日は朝九時に駅前集合ってことでよろしくね」
 何が『そういう訳』なのかは甚だ疑問だった。しかも折角の日曜日の朝九時に集合はないだろう。何か抗議しようと思ったところで、
「たかちゃん、時間は有限なんよ? 少しでも早く集合しないと見つかるものも見つからんよ」
 と先手を打たれた。まぁ、そんな理屈だろうとは思ったが。これ以上何を言ったところでまともな答えが返ってくるとも思えない。とりあえず花梨の気の済むようにやらせよう。
 そう諦めて、明日は早起きすることにした。

「…で、何でいきなりこういう事態なんだ?」
 時間になっても現れない花梨を駅前で待っていると、通りすがりの妙な女の子二人組が目に付いた。一人は、色が白く髪の長い女の子。もう一人はお団子頭の小柄な女の子。まぁ、別に駅前に二人並んで居てもおかしくはない出で立ちではあるのだが、その行動に問題がある。

「るー」
「るー☆」

 何か、二人して両手を高々と上げて
『るー』とか言い合っているのだ。あれでコミュニケーションが取れてるのかさっぱり解らん。まるで宇宙の挨拶でもしているようだ。ただ一つ言えるのは、こんな様子を花梨が見て放っておく筈がないということ。幸い、まだ花梨は来ていない。是非とも花梨が登場する前にこの二人にはご退場願いたいものである。そんなことを考えていると、
「たかちゃ〜ん、待った?」
 と大声で名前を呼ばれてギクリとする。声のした方を見ると、こちらに大きく手を振りながら花梨が駆けてくるところだった。幸い、俺の姿が壁になって花梨にるーする二人組の姿は見えていない。
「『待った?』も何も、もう十時前じゃないか! 待ち合わせは九時の筈だろ?」
「もう…こういうときは…どんなに…待たされたとしても『いや、僕も今来たところだよ』って…いう…ものよ」
 肩で息をしつつ、遅刻したことを棚に上げて好き勝手ほざいている。まぁ、息が切れるぐらい走ってきた努力を認めてこれ以上追求するのは止めておいてやろう。
 そんなことを考えていると、花梨が例の二人組の方に目を向けたのに気付いた。焦って俺も振り返ったが、もうるーはしておらず、二人揃って並んで歩き始めるところだった。ホッとして何となく二人の姿が見えなくなるまで見送った。
「たかちゃんの、浮気者ぉ!」
 何を勘違いしたのか、花梨が怒鳴る。まぁ、事無きを得たからよしとしよう。

 その後は『フィールドワーク』と称して街を二人でぶらついていた。ゲーセンやらショッピングセンターやらを歩き回って、ヤックで手軽に昼食を済ませる。何とも平和なものだ。そうそう不思議は転がっていない。少し変わったモノを見かけたとすれば、エクストリームで優勝したとかいう先輩とその親友でマネージャーをしてる先輩が一緒に歩いているのを見かけたくらい。確かに凄い有名人なんで目に留まったけれど、別に超能力ではなく格闘技で優勝したのだから今回の趣旨とは関係ないだろう。

 結局、街中を歩いていても大した発見も無く、何となく休みであるにも関わらず部室へ向かうことになった。途中、休日にも関わらず、髪の長い女生徒が体育館の前で何やら口ずさんいるのを見かけたが、すぐにどこかに行ってしまった。休みとは言え活動しているクラブは幾らでもあるのだから、人が居たからといっておかしなことはないのだ。

 体育館横の第二用具室。放送室への階段の奥の我らがミステリ研部室。結局何の成果もなくここへ戻ってきてしまった。
「そう簡単に宇宙人とか超能力者とか未来人が見つかる訳なんてないんだよ。結局今日は二人で街を歩き回っただけじゃないか」
「確かに、そんな簡単に見つかったら不思議でもなんでもないもんね」
 珍しく、素直にこちらの言い分を認める。
「だから、また今度の休みも、その次も一緒に探してね、たかちゃん!」
 妙に嬉しそうな、どこか期待の籠もった笑顔で俺の方を見る。
 ふと、『もしかして、単に俺とデートしたかっただけなんじゃないのか?』 と思ったのは俺の思い上がりだろうか?
まぁ、花梨といると何かと面倒にも巻き込まれるけれど、楽しいのは確かかな。女の子は苦手だけど、勢いに飲まれてそれも忘れてる気がするし。
「って、まだやるのかよ…」
 と口では言うが、まんざらでもない気分になっていることは否定できない。

 不思議なんてそうそう見つからないけれど、こうやって花梨と一緒にいると退屈しないのは確かだからな。もう少し、活動に付き合ってやるとしよう。どうせ、宇宙人も超能力者も未来人も見つからないと思うけど。

「笹森花梨の憂鬱?」 完

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