中田永一・著、小学館文庫。
3月15日(日)読了。

五島列島の中学校に
産休中の音楽教師に代わって臨時でやってきた柏木ユリ。
合唱部の顧問も引き受けることになるのだが、どうにも産休中の松山先生とは勝手が違う。しかも、これまで女子しかいなかった合唱部に、美人の顧問目当てに男子が入ってきて大きく揺れ動く。
果たして、合唱部はコンクールへ向けてどうなっていくのか……

NHKコンクールを目標に据えた中学生達の合唱物語。映画が凄く良かったので原作もと読んでみたのですが、読んで良かったです。特に、合唱周りの描写がサラッとしつつもその楽しさ、歌う喜びが伝わってきて、長年合唱に携わっている身としては心に染み入ります。『信長貴富』の名を小説中で見たりするのも新鮮でニヤリとさせられました。まぁ、合唱部のモットーとして引用され、この作品のタイトルにもなっている『くちびるに歌を』は、その信長貴富が合唱曲として作曲していたりするので、合唱やってる人はそこへの言及がないのがモヤモヤするかもしれません。でもまぁ、合唱知らない人にはそこへ言及して混乱させるよりは触れない方がいいとも思えます。

物語的には、語り手となるナズナ・サトル双方共にそれなりに重い事情を抱えているんですが、それも軽んじずにでも重くなりすぎないように綺麗に組み込まれていて、本当、素敵な物語でした。終盤の演出は、美しいプロットの妙ですねぇ。

また、映画だと部長の座をナズナに奪われてたり余り前に出ることの無かった辻エリの魅力が存分に描かれているのも重要な点。映画で彼女が気になったなら原作を読まないと後悔します。それは確定的に明か。

こうして読んでみると、映画は原作を大幅にアレンジした内容ではあったのですが、それでもエッセンスは残ってたことがよく解りました。映画も小説も、どちらも素晴らしく、心に残る作品となりました。こうなると、コミック版も気になりますねぇ……

てなところで次は『落第騎士の英雄譚《キャバルリィ》零』です。

くちびるに歌を (小学館文庫)

中田 永一
出版社:小学館
発売日: 2013-12-06