城平京・著、創元推理文庫。
6月7日(月)未明再読了。

時は二十世紀末。 メディア各社に届いた謎の童話『メルヘン小人地獄』。
復讐のために小人たちが人間を吊して煮て剥いて残虐に殺していく残酷な童話だった。
困惑するばかりだった各社だったが、童話の内容の見立てで一人の命が奪われたことで状況は一転する。
鍵を握るのは『小人地獄』という完全無欠の御伽噺のような毒薬。
果たして、かの毒薬の因果はどこへ向かうのか?

最初に読んだのがいつなのか正確には覚えていませんが二十年は経っているでしょうか? 奥付によれば手元の本書は1998年7月24日付けの初版本であり、2000年11月7日に推し作品として紹介文的なものを書いていた形跡が残っているので、読了推定日時はそれ以前、つまり、二十年以上前であることは確かと言えましょう。

その後も、かような読書記録をメインとしたブログをかれこれ十七年ほど続けているぐらいには本を読んで生きいる人間です。
ゆえに「一番好きな作品は?」と聞かれるとそうそう答えは出せません。 ですが、もしも。 「一番好きなミステリは?」と聞かれたなら?

『名探偵に薔薇を』

と、即答することでしょう。

初読の当時、物語の構成や謎の組み立ても勿論ですが、何より、この作品に登場する瀬川みゆきという名探偵の在り方に心を奪われました。

ミステリにおいて、ともすれば事件を解決するための『装置』としての存在、色々な意味で『人でなし』たりえる名探偵という存在への問いを秘めた彼女の苛烈な在り方は、本当に鮮烈でした。同種の探偵役としては、「間違っていたら教えて欲しい」と真相でないことを願いながら真相を看破する学生アリスシリーズの江神二郎がおります。こちらもすごく印象的で未だ最終巻が出ず結末を読めていないことが哀しいような嬉しいような状況ですがそれはさておき、当時は彼の在り方をさらに先鋭化させた存在と感じていました。

残酷童話の見立て殺人を巡る第一部『メルヘン小人地獄』。
完璧な毒薬による不手際だらけの毒殺事件を巡る第二部『毒杯パズル』。

これらが連なって『名探偵に薔薇を』という物語を紡ぎます。

読み返してみて、事件の核心付近の僅かな部分以外はほぼ忘れていて新鮮な読書体験となり、再び瀬川みゆきと出会い直したような心持ちです。なんというか、この二十年ほど、この作品と彼女から多くの影響を気づかずに受けていたのだと思い知らされることにもなりました。滅多にフィクションのキャラにこういう表現をしないのですが、初読時に気づかずに瀬川みゆきというキャラクターに恋していたのかもしれません。

同作者の直近の作品で有る『虚構推理』を読んで再読せずにいられなくなったのは、全く対象的な性格というか至上希に見る下品なヒロインとも言える『一つ目一本足のおひいさん』岩永琴子の中にも、確かに瀬川みゆきに通じるものを感じたから、というのはいささか感傷的でありましょうか?  

細かい内容には触れません。気になったなら読んでみるのも一興でしょう。猟奇殺人を扱ったミステリゆえ、少々人を選ぶ描写があることは、ご留意の上で。

てなところで次は『人類最強の sweetheart 』です。